関西SDGsプラットフォーム大学分科会

イベント・活動報告|大阪大学

2024年3月21日(木)、いのち会議キックオフ・シンポジウム「いのち会議 x『SDGs +beyond』-未来に向けて我々が今なすべきこと-」を開催しました。

2024年3月21日(木)、いのち会議キックオフ・シンポジウム「いのち会議 x『SDGs +beyond』-未来に向けて我々が今なすべきこと-」を、大阪大学中之島センター10階「佐治恵三メモリアルホール」およびオンラインのハイブリッドで開催しました。話題提供者の方々含め会場には120名、オンラインには150名が集まりました。以下に、概要を報告します。

開会挨拶
西尾 章治郎(大阪大学総長、「いのち会議」事業推進協議会議長)

「いのち会議」は、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」社会を実現するための方策や万博のテーマである「いのち輝く未来社会」のあり方について議論し、その実現のためのアクションを提案するなど、SDGsの推進や達成に向けて世界に貢献するものである。
これら議論の結果を「いのち宣言」として2025年の「大阪・関西万博」の場で世界に発信する予定。
SDGsの理念と「いのち会議」事業の推進は、本学の基本方針に合致するもの。
今後、「いのち会議」事業推進協議会議長として、さらに積極的な役割を果たしていく。

博覧会協会からのメッセージ
石毛 博行(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会事務総長)

大阪・関西万博開催まで1年あまりとなり、会場のシンボルである大屋根リングや海外パビリオンなど開幕に向けて着々と準備が進められている。
「いのち会議」では、立ち上げ時から「いのち輝く未来社会」について積極的な議論が重ねられており、教育、経済、食と農などの切り口で、ユースの参加を得たアクションパネルが行われている。対話、交流を行う取り組みはパビリオンの展示とは異なり、人類共通の解決を目指す21世紀の万博の取り組みとして必要不可欠である。

趣旨説明
堂目 卓生(大阪大学総長補佐、「いのち会議」事業実行委員会副委員長)

・現在、私たちは、「助けるいのち(capable)」と「助けを必要とするいのち(vulnerable)」が常に入れ替わっている世界に生きている。今後求めるべき世界は、「助けを必要とするいのち」を中心に置き、「助けるいのち」が手を差しのべて助け合う共助社会。いのちの中には人間だけでなく、他の生き物や地球をも含まれる。
・「いのち会議」は、「いのち」とは何か、「輝く」とはどういうことか、「誰一人取り残さない」ために何をなすべきかをあらゆる境を越えて考え、話し合い、それぞれが行動に移す場である。
「いのち宣言」は、「すべてのいのちが輝く社会」の実現を見据え、2030年のSDGs達成に向けて何が重要か、さらには、SDGsの次のゴールを策定する上で何を考慮に入れるべきかなどを世界に示すアジェンダである。
・私たちが為すべきことは、まず、「いのち」に立ち返り、目指すべき社会と経済を構想すること。
私たちが自分に対して問うべき問いは、「できる」か「できない」かではなく、「なす」か「なさない」かである。

基調講演
「日本の国際協力、人間の安全保障・SDGsにつながる動き、そしていのち会議への期待」:田中 明彦(JICA理事長、「いのち会議」事業推進協議会)

・この「いのち会議」で検討されるテーマは、日本政府の開発協力大綱の問題意識とも一致し、JICAにとっても自ら解明していかなければならないテーマである。
・気候システムや世界経済・国際政治システムが複雑に作用して発生している危機への対応は、国境を越えて様々なアクターが一緒に努力し、協調して課題に取り組むことなしに課題解決の道は開けない。
・危機を乗り越えて作る「いのち輝く未来社会」のビジョンを是非「いのち会議」で議論していってほしい。2030年以後のBeyond SDGsについて、万博を機会に議論を活発化させていく「いのち会議」の役割は大きい。
・JICAは、世界96か所の海外拠点を持ち、143カ国・地域で活動を行い、国際機関や各国の開発援助機関とも密接な連携を行っている。このネットワークから得られるインプットを「いのち会議」の議論にも提供していきたい。
・万博のテーマでもある「いのち輝く未来社会」のあり方について、途上国や国際機関から人々の声を反映すること、議論やイベントに直接参加できない途上国に住む子供や人々が望む未来社会のあり方や抱える課題などを理解するため、その小さな声に丁寧に耳を傾ける取り組みを世界各地のJICA関係者を通じて行い、「いのち会議」の議論に反映することを考えていく。
・SDGsの取り組み期間は、残り6年となり、今後SDGsのゴール達成に向けJICA は、日本政府とともに活動の加速化を行っていくが、「いのち会議」の活動も今後のSDGsの推進に先導的、かつ重要な示唆を与えるもの。私も事業推進協議会委員として、今後の活動を推進していきたい。

話題提供① 「Summit of the Future Our Common Agenda 多国間主義の強化を賭けた「未来サミットに向けて」-SDGs実施後半戦の観点から」:根本 かおる(国連広報センター 所長)

・SDGsの大原則「誰も取り残さない」を中核にした「いのち会議」の取り組みに強く共鳴。国連としても「いのち会議」と連携できる余地が大きいと思われる。
・昨年はSDGsの取り組み期間の中間点にあるがデータに裏打ちされたターゲットのうち順調に進捗しているのは、わずか15%のみ。UNDP発表の最新の人間開発指数(HDI)では、新型コロナウィルスの影響を挽回した様に見えるが、脆弱な国々では、その進捗は停滞、または後退している。
・この様な状況下で、昨年開催されたSDGsサミットでは、波及効果の高い6つの取り組み(High Impact Initiatives)とSDGs刺激策(資金)が成果文書に盛り込まれたが、これには強い多国間主義が不可欠。我々や次世代が今後直面する脅威や危機に対応するための刺激策として「Our Common Agenda」がまとめられ、今年は、それらを基に9月に国連「未来サミット」が開催され、SDGsの実施をより確かなものにするとともにSDGsでは対処できない課題も議論される予定である。

話題提供② 「いのち輝く未来社会とSDGsの達成に向けた企業の取り組みと役割」:角元 敬治(一般社団法人関西経済同友会 代表幹事、株式会社三井住友銀行 取締役副会長、「いのち会議」事業推進協議会)

・これまで銀行業は、それ自身が社会インフラであり、社会へ貢献する存在として考えられていたが、もはや、企業全体が社会貢献、さらに+αが求められるようになっている。
・企業価値のステークホルダーとしては、お客様、株主、社員とともに、社会も加えられ、経済的価値とともに、社会的価値の提供も企業活動の目的となっている。
・先日開催された関西財界セミナー(580名が出席)では、分科会において「いのち輝く未来社会」のために企業は何をするかを議論した。
・企業は、一企業だけでなく、産官学民と連携して取り組んでいく必要がある。関西経済同友会としても、企業の本業を通じた社会課題の貢献につながるきっかけや気づきを提供するとともに、「いのち会議」の議論が、企業のこのような活動の活性化につながることを確信している。

話題提供③ 「グローバルな枠組みと私たちの生活~保健医療分野における市民社会の動き~」:池上 清子(プラン・インターナショナル・ジャパン理事長及びアジア人口・開発協会 常務理事、「いのち会議」事業推進協議会)

・SDGsではLeave No One Behindが最重要のコンセプトであり、NGOは取り残されやすい人々(ソマリランドの難民や児童婚の事例の様な、脆弱な子供や女性など)に寄り添って活動を行う。
・健康というのは、身体的健康だけでなく、心が健康であること、そして社会的にも自分らしさが活かせるなど、すべての面で健康であることが重要で。この考え方を「いのち会議」にも提案したい。
・市民社会の役割としては、(1)我々が現状を知り、市民社会/自らが発信すること、(2)マスコミとの協力(人は知らなければ行動できない、知ることが、行動への第1歩)、(3)市民社会として掲げる共通理念として、グローバルな視点から大切にすべきことや理念を政策提言すること。
・共通理念として重要なのは、①平和であること(平和でなければ、教育や医療の支援も貢献できない)、②公平性であること、平等(equality)ではなく、公平(fairness)との違いを十分に認識すること、③人間中心であること。
・その様な考え方の下、NGOや市民社会は、すべてのステークホルダーのために活動すべき。

話題提供④ 「ないものはない 海士町(海士町の概要、国際協力への取り組み、海士町から見たSDGsについて)」:河添 靖宏(島根県海士町郷づくり特命担当グローカルコーディネーター)

・海士町の抱える人口減少、超少子高齢化、超財政難、担い手不足は日本だけでなく世界の抱える課題であり社会の縮図である。
・その中で、①地域資源を生かした仕事づくり、②島でやりたいこと(例:農業・漁業・観光振興、教育魅力化、起業など)を実現したい若者を募り、役場が伴走することでまちづくりを行っている。
・課題解決の事例として、人口減少傾向にある中、廃止寸前の県立高校に対し、地域課題解決型学習を取り入れ、地域ぐるみで取り組みを伴走する取り組みがある。
・地域おこし協力隊事業を活用し、2021年から「大人の島留学」の仕組みを作り、多くの若い人の受け入れを行っている。(2024年4月から若者100名が来る予定)
・また、魅力的なまちづくりの一環として国際交流も実施。2016年からJICA研修、JOCV隊員の派遣前研修、万博国際交流プログラムなど、町ぐるみで学び合いの場を形成している。
・他人との関係性、共創、共感、顔の見える個人など、今後は都市主流の価値観から地方の価値観の再評価へ。SDGsの達成の点でも重要である。
・海士町のスローガン①便利なものはなくてよい。②ひとが生きていくためにたいせつなものはすべてここにある、③なければ創ればよい、の意味するものは、今の社会に通じる重要なものといえる。

話題提供⑤ 「いのち輝く未来社会とSDGs達成に向けた意味あるユースの参画と取り組みへの決意」:川和 ニコラ(持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム(JYPS) 政策提言部、東北大学法学部)

・自身として、環境、貧困、格差、政治、性差別など社会問題に関心。社会の問題を認識した人には解決に向けた取り組みを行う義務があるという考えから、社会の変革を目指す人と議論して、活動していきたい。
・所属している「持続可能な社会に向けたジャパン・ユース・プラットフォーム(JYPS)」は、ユースの声を集約し、政府や国連機関、市民社会に声を届けていくためのプラットフォームの役割を果たしている。
・現在、ユースの参画が謳われる様になったが、いまだにユースが政策決定に参加できる場が十分でないなど、ユース参画の機運が醸成されていない。参画しても、形骸化またはユースを全面に出すことで広告塔の様に使われる(ユース・ウォッシュ)など、ユースの意見が対等に扱われているか、実際に政策決定に反映されているのか疑問に感じられることも。声をしっかりとあげれば社会を変えられるという、制度的な参画保障が必要といえる。
・ユースの強みは、しがらみのない発信力とより遠くの未来を考えられる想像力。「このような世界であったら良いな」を実現できる機会を有する世代である。一方、日本では、こどもの相対的貧困率の高さ、自殺者数の多さ、選挙で投票しても数が少なく、プレゼンスが上がらないなど、ユースを取り巻く環境は厳しい。だからこそ単なる参加ではなく、「意味ある参加」が必要である。
・世代の対立を作りたいわけでもやユースの声に耳を傾けてほしいわけでもない。ユースを含めた多様な社会の構成員でSDGsの目指す「誰一人取り残さない」社会の実現に向けて、一緒に手を取り合いながら議論し、前に進んでいくなど、連帯することが重要である。

パネルディスカッション

・論点①:「いのち輝く未来社会」とはどのような社会か?
 
 根本:「いのち」を広く捉えて、「生命」的ないのちをこえて、人生、生きがいや暮らし、Well-Beingなども含める。誰一人取り残さないとともに、根幹としての人権の保障が確保されて初めていのちが輝く。「いのち会議」の議論でもこれを中核に添えること重要である。また、「足るを知る」という考え方から見えてくる幸福の考え方が重要。GDPだけでは測ることができない、自然資本や精神的豊かさをどのように捉えていくのかが、「未来サミット」を含めた世界の議論の方向性といえる。
 
 角元:関西財界セミナーでも、「いのち輝く」とは何かについて議論し、いのちの尊厳が守られていること、自分の存在を認めてくれる人やコミュニティがあること等の多様な意見が出た。産業革命以降グローバルに経済が優先され、社会的価値が疎かにされた結果、環境破壊、貧困・格差の拡大など、人が住みにくい環境になってしまった。今一度、人にとっての幸福は何かを考える転換点にあるのではないか。考えるに当たり、重要な点を2点。1点目は、人を中心に置いて考えること。2点目は世の中が平和なことが全ての前提であるということ
。 
 池上:平和、一人一人の健康・Well-Beingの保障が「いのち輝く未来社会」の大前提。熱帯医学からGlobal Healthを越えたPlanetary Healthへの考え方の変遷があり、人間だけでなく全ての生命体が共存できる社会が重要とされてきている。
 
 河添:人々の関係性、余白のある社会、他人の顔がみえる社会作りが重要。都会の価値観を否定するものではなく、地域の価値観との共存がこれからの社会。若者が自由にキャンバスに描けるまちづくりに伴走することが重要だと思う。
 
 川和:20歳の人間には2030年は未来社会というより現在に近い社会である。2030年が期限であるSDGsの達成状況は日本も含めて世界的に課題があるので、「誰一人取り残さない」社会とはどのような社会か今一度考える必要がある。そのうえで、ミクロな視点で言えば、身の回りで埋もれた声がないか視野を広げ、またそういった声に共感したり理解を示したりすることが重要である。
 
 根本:美辞麗句ではなく、アクションに移すことが重要。日本の社会では号令はかかるが成果が見えない傾向。影響を及ぼす範囲でも有言実行し、成果をあげることが重要。それが束になれば社会は変わる。
 
 角元:リモートワークが普及することで、都会と地方が必ずしも対立するものではなくなる。関係人口を増やすことで、多様な人々と「いのち輝く未来社会」について考え、実践していくことが重要ではないか。また、世代間対立という観点では、私は同友会で常々、自分の子や孫の将来に思いを巡らせるよう呼び掛けている。そうすることで、社会課題を自分事化することができ、現世代が将来世代と同じ目線で物事を捉えることができるのではないか。
 河添:子ども達と議論すると今あるコミュニティや自然など、資源を残していきたいという意識がある。自分事化が原動力となると感じる
。 
 池上:高齢化という課題は同時に人類としての成果(選択の結果)という側面もある。少子化については個人・パートナー間の選択の結果である中で、どういうことをメッセージとして伝えることで「いのち輝く社会」が実現するのかとの話となる。また、少子化の問題が解決できない、または違う観点で見て行かない限り「いのち輝く社会」の実現は難しいという議論もある。
 河添:教育・福祉など様々な課題の複合要因の結果だと思うが、同時にコミュニティとして共同で子どもを育てる・見守る文化などヒントとなる事例もでてきている。
 
 川和:個人の選択の帰結として少子化の問題が生じるようでは「いのち輝く社会」は作れない。社会として、もしくはお互いに支えあってどのようにすれば一人一人の選択肢を増やしていくことができるか考える必要がある。 
 池上:1974年の人口推計で人口減少のシナリオは分かっていたのに、政策的選択をしなかったことが大きな問題。今はアクション/選択をしなくていいという考え方でずっと来てしまった。「いのち輝く社会」のためにはどこかで覚悟を決める必要がある。

・論点②:「いのち輝く未来社会」を構築するための必要案考え方、行動とは何か?
 
 川和:「声をあげれば変えられる」という社会。立候補や投票だけが変える唯一の手段であってはならない。声をあげれば、それが社会に反映されることを学べる教育や情報発信が必要である。
 
 河添:海士町では、町の幹部が普通に人々の声を聞いている。ステークホルダーがいろんな人の声を聞くのが重要。仲間を作り、地域の中で価値を見出し、挑戦する人を育むことが重要である。
 
 池上:市民社会との連携、公平性の担保(特にジェンダー・環境)、持続可能な政治・体制作りの3点がポイント
。
 角元:2点申し上げる。1点目は人を中心に物事を考えること。企業経営においても、人的資本経営、すなわち人を「コスト」ではなく「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことが中長期的に企業価値を高め、社会課題の解決につながるという考え方が浸透しつつある。2点目はいかに社会課題を自分事できるか。共助の考え方をもって、一人ひとりができることから実践していくことが大きなうねりを生み出すのではないか。
 根本:「困ったときはお互い様」の考え方に基づいて、共助によってゼロサムではなく、プラスサムへ。環境問題や少子高齢化など中長期的に大切な課題に真剣に向き合うことが重要。危機感だけでなく、解決策を示し、身近にある事例を示して人々に希望や手応えを感じてもらうことが重要である。

・メッセージ
 根本:シンクグローバリー・アクトローカリー。「いのち会議」の議論が実践につながることを期待する。
 角元:多様な人が集まり議論することで、「いのち会議」が共感を生み、育む場になることを期待したい。
 池上:皆が努力してネットワークを拡げ、人々を巻き込むことを期待する。
 河添:世界にアンテナを張り、地に足をつけて地元に貢献する人づくりが重要である。
 川和:包括的に裾野を広げて、「誰も取り残さない」意見交換の場を設け、「いのち輝く社会」の実現に向けて有言実行することが重要だと思う。
 堂目:ビジョンを描いて方法を見つけることが重要。先は見えないが、長い道のりを歩んで行くことができると感じた。本日、今後裾野を広げ、人々を招き入れつつ歩み続けるという覚悟を確認した。

閉会挨拶
田中 学(大阪大学理事・副学長、「いのち会議」 事業実行委員会)

・今回のシンポジウムでは、2025年の万博、2030年のSDGsの達成に向けて「自分事として考える」ことの重要性が浮き彫りになった。小さなアクションの積み重ねと共感・連帯が課題を先送りしない大きなムーブメントになっていく。世界が危機に直面している今こそ「いのち会議」の活動が重要な意義を持つ。今後ユースを含めた多様なアクターと連携して取り組むこととしたい。